天衣無縫 〜院長のひとりごと
東京駅の高校球児
掲載日 : 2015年08月23日
先週は東京で一日仕事をしていました。その帰りに東京駅で食事を取ることにしました。お盆のお休みの影響もまだあって何処のお店も繁盛していました。その中で、いつも何かの時に寄るお店に入ろうとしたのですが、かなり混みすぎている感じだったのでそのお店の目の前にある天ぷら屋さんに入りました。
「いらっしゃいませ!」ものスゴく氣持ちの良い挨拶です。お店の中はやはり大変混雑しており板前さんと後二人のスタッフの人が機敏に働いていました。あの混みようで板前さん一人と言うのはどうしても不自然です。これは今の日本でよく見られるパターンですが、昼間の方が忙しく、夜の方が若干空いているとすると、経営者の方は直ぐさま一人二人人員を減らしギリギリ足りる人数でその場を間に合わせるという人件費削減を行います。もちろん過剰な人件費はお店の経営を圧迫してしまいますから人員を減らす場合もあると思います。ただし、あまり余力のない状態でギリギリで仕事が続くと人間には体力も精神力も疲れが出てくることがありますから、結果的に今いる人達もまいってしまい仕事が続かないということもあると思います。身体調整を専門にしている私はこういったケースを沢山見てきました。
話がそれましたが、このお店の場合も明らかにスタッフの方が足りていない感じがしました。カウンターの中に二つ板前さんが立つ場所があるのに、片方はだれもおらず片側だけで板前さんが仕事をしていました。でも私が驚いたのは、その足りない人数の中でこの板前さんの身のこなしと、表情、そして発せられる氣持ちの良い言葉でした。「はいわかりました。」「ただいまさせていただきます。」「お待ちどう様でした。」「ありがとうございます。」、どの言葉も歯切れかよく、言葉に感情がしっかり着いていっている感じでした。その板前さんもガンバりますが、ホールの女性も、もう一人の男性スタッフも一生懸命やっている仕事が本当によく分かりました。私はこの方達の仕事ぶりに感動して待ち時間を過ごしていました。「お待ちどう様でした。」と、私の天ぷら定食が運ばれて来ました。海老やホタテの魚介類、「後から、お野菜はお出ししますんで。」。私は本当にこの氣持ちの良い方達の仕事のエネルギーを味わいながら魚介類を食べ終え、後一口のごはんと、少しの味噌汁となった時、「あ、いけねえ。」「すみませんでした。」「野菜すぐやりますんで、忘れてました。ほんとすみませんでした。」、と板前さんが急に白い帽子をとって深々と頭を下げられました。この帽子の取り方と頭の下げ方、何処かで見た光景だなと思いました。私も思わず、「いやそんな結構なんですよ。あまりの立派な仕事ぶりに私も野菜なんか忘れて食べていました。それにしても、ほんとに立派な仕事ぶりですね。参考にさせていただきます。」、「とんでもないです。本当にすいませんでした。」と板前さん。
帰り際の支払いの時に、女性スタッフに「皆さんほんとに氣持ちの良い立派なお仕事ですね!」「ところで、あの板前さん野球やられていました。ほんとに氣持ちの良い動きですね!」、「はい、野球をやっていたようです。本人も喜ぶと思います。」
暖簾をくぐるとき、板前さんの方に向かって頭を下げると、板前さんもこちらを向いて帽子をとり頭を下げられました。やはり高校球児のあの帽子をとる姿勢とタイミングでした。
その日は高校野球の夏の甲子園の準決勝が行われた日でした。
東京駅の元高校球児は社会で立派にお仕事をされていました。
本当に氣分が良く、幸せな氣持ちの夕食となり、新幹線で三島に帰ることが出来ました。